第10章 ある男の回想 降谷side
「安室さん、あなたは本当に"探偵"じゃない方の安室さんなんですか?」
驚いた。このうさぎの観察力は凄い。普通に家に帰ってくるとソファの上に体育座りをして顔を埋めていた。
正直に言って嫌な予感はしていたが、それが当たってしまった。
びくびくとしながらも、彼女は周りを良く見ている。いや、見るようにしていたんだ。
暴力を振るわれていたこともあったのか人の表情の変化とかよく気づいていた。
隠しても無駄だと思った俺は全部言った。安室透はいない、ハニートラップをしていた、本当の名前は降谷零。と。
全て受け止めてくれると思っていた。しかし、その予想だけは当たらなかった。
『もう嫌です!頭のどこかでは、分かっていました。初めて会った私に一目惚れなんてするわけ無いな。て!これ以上は、やめてください。離して、安室さんっ、いや、降谷さん!!』
予想以上に傷は深かった。
それほど俺のことを信頼してくれたんだ。と思うほどに彼女は傷ついている。力を緩めると一目散に逃げていった。
気付いたときにはもう誰もいない。
スマホの電源を付けて、アプリを開く。彼女はビジネスホテルに入っていたらしい。
どうにかしている。自分でもそう感じるほどに彼女のことが好きらしい。位置が確認できるアプリを彼女のスマホに入れたのでどこにいるのかも分かる。
本当は、何か掴める場所とかあったらすぐに行くために取り入れたが今は違う。
心配で心配で堪らなくなり、今ではアンインストールをしたくない。
彼女は俺のものになってくれれば、アンインストールをしようと考えている。
「……欲深くなったものだ。」
誰もいないリビングで1人の虚しい声は響きわたった。