第6章 一転
「……雪花さん、まだ起きていたのですか?」
安室さんの声がリビングに響く、あぁこのままで何時間ぐらい経ったのだろうか。あのあと、すぐにテレビの音に嫌気がさして、消してしまった。目を開けるとソファの上で三角座りをしたまま寝ていたらしい。
「何かあったのですか?」
顔を上げない私のことを不審に思ったのか、近づいてくる足音が聞こえる。やめて、近づかないで。そうしたらここから早く出ていけば良かった。
腕に優しく触れられたが何だかすごく嫌で、バッと振り払ってしまって自分自身でもびっくりしている。
もしかしたら、違うかもしれないのに。関わってないかもしれないのに。そういう気持ちとは反対に、また裏切られるのか。暴力ふるわれるかもしれない。など負の気持ちでごちゃごちゃになりまた涙が溢れそうになったがグッと目尻に力を入れた。
「本当にどうしたのですか、雪花さん。何か嫌なことでも……。」
「安室さん、あなたは本当に"探偵"じゃない方の安室さんなんですか?」
顔を上げて安室さんを見ると、あの優しい笑顔ではなく無愛想な表情で私を見ていた。何だか本当に安室さんじゃない。そう感じた瞬間に優しそうに困ったような顔立ちの安室さんになった。
「やだな、僕は安室透ですよ。探偵でも普段でも。本当に何かあったのですか?」
「……元彼が麻薬の運び屋だってニュースで見ました。
だから、安室さんは」
「もしかして、僕が"雪花さんにハニートラップをしていた"とか言いたいんじゃないんですか?」
私が言いたい事を読み取ったのか、そう言われた。
すると隣に座ってきて、チラッと横を見られて「ふぅー。」なんて息を吐く声が聞こえてきてまた安室さんとは打って変わっての無愛想な表情になる。
「どこからその情報を聞いたんだ。」
声のトーンも優しそうに笑う顔も、安室さんではない別の誰かが私の隣に座っていた。