第1章 犬も歩けば棒に当たる
シェイドは落としたヘドロを見ながらデクに話しかける。
『デクさん。貴方はどうしてヒーローを志したのですか?』
その声色はとても寂しげで、儚げで、それでいて
「僕は………」
有無を言わせぬ緊張があった。
「オールマイトに憧れて、彼みたいに笑顔で人を助けることができるヒーローになりたくて、今まで頑張って来た」
シェイドはデクの話を黙って聞いている。
「雄英に入って、たくさんの人に出会って、いろんなことを経験して、オールマイトや先生方、同じクラスの仲間が僕に勇気を与えてくれた。
だから、今度は僕が皆の為に頑張る番。
僕は、たくさんの人を笑顔で助け、勇気を与えてあげられるヒーローになりたい」
話し終えたデクは後から気がついた。
「ああ!ごめん!ヒーローを志した理由だよね?なんか願望みたいなこと語っちゃってごめん!」
『いいんです。謝らないでください。私はずっと、それを聞きたかったんです』
「それって、どう言う………」
意味?と続くはずのデクの言葉は大きな水しぶきによって遮られた。
『!?』
「下がって!」
シェイドとデクは川から距離を取る。
シェイドは咄嗟に周りを見回したが、人はいなかった。
グワアアアアアアアア!!
「ヴィ、敵?!」
『川の中からですよ!?』
デクとシェイドが驚いている目の前で、ウニョウニョと動くそれはまるで、
『ヘドロ………!』
シェイドの呟きを聞いたデクは、オールマイトと初めて会った時のことを思い出していた。
「君、警察呼んで。それから、できるだけ離れてて」
『デクさん、1人で戦う気ですか?!幾ら何でも無茶ですよ!』
「大丈夫!あれと似た個性の敵と戦ったことがあるから………!」
ヘドロ敵がウニョウニョと形を整え、ギョロリと目玉が2つ現れた。
デクはシェイドを振り返って、もう一度言った。
「大丈夫!僕を信じて!」
デクは笑っていた。