第9章 爪の垢を煎じて飲みたい
『彼は中学生のときに身体を奪われました。偶然居合わせた私が彼の影を引き取り、こうして自我だけを持って生きています』
「そんな事、できるの?」
デクのつぶやきにシェイドは当然のように答える。
『個性ですから。それからそういう設定です』
「身も蓋も無い!」
シェイドの影が皆と逆向きに伸びるのを見ながら、デクは質問を続ける。
「君が死ぬと、影の子は帰ってくるの?」
『どうして聞くんですか?』
「…………仕事だから」
彼はまた何かを飲み込んだ。
『答えは、いいえ、です。私が死ねば、彼共々消滅します。ただ、私の身体はそろそろガタがきているので、あと1年もないでしょう。それまでに彼が私の中を支配すれば、私は消えて、彼はこの身体を手に入れることになります』
シェイドは自分の腹を撫でる。
『私は彼の陰になります』
そう言う彼女はどこか嬉しそうで……。
『エンプレスは私を物理的に殺せば、この影は帰ってくるっと思っていますが、先程言いました通り、帰ってきません。エンプレスはこの影を取り戻そうと必死になっていたので、彼の体を何処かで見つけたのでしょう。でも、彼は自分の体に戻ることは望んでませんし、戻れないです』
デクは礼を言って、シェイドは何かに気がついた。
『ところで、』
ヒーローたちに小さな緊張が走る。
『もう1人の使用人は何処へ?』
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
ヒーローの声が揃った。
「探せ!!」
チャージズマの掛け声で日本家屋に戻るも、時既に遅く。
「や、やられた…………!」
金目の物は全て消えていた。