第1章 犬も歩けば棒に当たる
現在時刻は午後5時。
シェイドは事務所の片付けを終えていた。
そして、暇なので周辺を散策する事にした。
今日から構える事務所周辺の事はしっかり知っておいた方がいい。
非常階段につながる扉とは別の扉、きっとこれからはこの扉を使う方が増えるだろう路地裏に続く扉から外に出る。
濡れたように艶やかな黒髪を風になびかせ、容姿端麗と言う言葉の為に生まれたような美女が町を歩いても誰も振り返らないのは、彼女の影の薄さに問題があった。
ちなみに、彼女の影の薄さは親戚一同のお墨付きである。
シェイドはいろんなところを見て周った。
公園、学校、川、飲食店、本屋………
シェイドにとって、この町の高いビルが立ち並ぶ風景には新鮮味がある。
故に、気になるものがあるとすぐに近寄って眺めていたりしてしまう。コンクリートに咲くタンポポにすら珍しいと感じてしまう。
シェイドは前述したように影が薄く、他人の意識の外にいつもいて、ちょっとした事なら特に挙動不審人物として目立ったりはしない。
今まさに、川底に見えたヘドロの多さに驚いて、川に落ちそうになったりしていたとしても。
しかし、彼には見えていた。
「危ないっ!」