第4章 おくびにも出さない
翌日。カラッとした秋晴れの昼下がり。
シェイドは私服で町を歩いていた。
つい3時間前の事である。
シェイドがいつも通りビルの清掃作業を終え、副社長に連絡する為オフィスに顔を出すと
「来てくれたー!」
副社長がシェイドを見つけるや否や叫びながら走ってくる。
『は?!』
シェイドが思わず後ずさろうとするが、身体が硬直して動かない。彼女は向かってくる男を見て、心の中で舌打ちする。
シェイドはオフィスを素早く見渡すと、居心地の悪そうな数名の社員とコピー機の前で青ざめる女性社員を見つけ、現状を瞬時に理解した。
飛びついてきた副社長を真正面から受け止めたシェイドは、衝撃で揺れる。
副社長はシェイドを抱きしめ
「私のヒーローー!愛してるからインクカートリッジ買ってきて!次の会議に必要な資料が印刷できないんだ!」
彼女の耳元で叫んだ。その声はオフィス中に届いた。
突然、耳元で愛を叫びながら懇願してきた従兄弟にうんざりした様子のシェイドは、冷静に言った。
『ひとまず、個性解いてください。動けないです』
「あ、ごめん」
従兄弟が離れると、シェイドの硬直は解けた。
『それで、どの種類のどの色をいくつ買ってくれば良いんですか?』
「えっ。行ってくれるの?」
シェイドが肩を回しながら質問すると、従兄弟は本気で驚いたように返答した。
その反応にシェイドは呆れる。
『頼んでおいてそれはないでしょう』
「ハイ、ソウデスネ」
副社長は青ざめる女性社員に向くと、何やら会話を始めた。すると、先程まで居心地の悪そうにしていた数名の社員が駆け寄ってきて、それぞれが小さなメモを副社長に渡す。彼が全てに目を通すと、シェイドにそのメモを渡した。メモは全部で4枚だ。
シェイドもそれらに目を通すと
『これで全部ですか?』
「うん」
副社長に確認し、服のポケットにしまう。
『準備ができ次第、すぐ出発します』
シェイドは一礼すると、オフィスから出て行った。