第4章 おくびにも出さない
「では、この報酬は全て、恵まれない方々への資金として頂きませんか?」
「……全て、ですか?」
「はい、全てです」
彼は警官をまっすぐ見て、はっきり答える。
警官2人は、真剣な表情の男と冷徹な視線を送り続ける女に見つめられ、不承不承申し出を受け入れる事にした。
上司に連絡したら、何を言われるか想像もつかない。
シェイドとその従兄弟は、警官2人に見えないように聞こえないように悟らせないように、テーブルの下で拳を突き合わせた。
『……は〜…』
「珍しいな、ため息なんて」
『誰の所為だと思っているんですか』
警官2人の見送りを済ませたシェイドと従兄弟は、ビルのロビーで立ち話している。
営業時間外なので受付嬢はいない。
照明が抑えられたロビーにはシェイドと従兄弟しかおらず、暗くなった外からは車の走り去る音が聞こえてくる。
『何も、全部寄付しなくたっていいじゃないですか』
「えー。でもコッツンしてくれたじゃん」
従兄弟は不満そうに両手の拳を軽く突き合わせる。
『それは………ノリで…』
「……ノリ…」
まさかシェイドの口から「ノリ」と言うセリフが出る日が来るとは思わなかった従兄弟は、内心嬉しかったが深い意味の無かったあの行動に軽く傷心する。あの行動は、お互いの意見が合致した時にすると昔2人で決めた事である。
従兄弟があからさまに肩を落として落ち込んでいるのを見ても、シェイドは追い討ちをかけるように言い放つ。
『あなたの会社の収入の一部は、私も稼ぐ事でこの契約は成立した事をお忘れですか?全て寄付したら、赤字も夢ではないですよ』
「そんな!赤字を目指してるみたいな言い方やめて!」
『じゃあどうするんですか。しっかり落とし前はつけてもらいますよ?』
「はぁい……」
従兄弟はシェイドをおいて、とぼとぼと歩いてロビーを出る。そのままエレベーターに乗って5階に着くと、副社長室と書かれた部屋から鞄を持って、ロビーに戻る。
ロビーではシェイドがまだ立っていた。
従兄弟が何処か疲れた様子の顔で自動ドアの前に立つと、ゆっくりとドアが開く。
従兄弟はシェイドを振り返ると
「じゃあ、いつも通りよろしくね。それから、また明日」
と言ってビルを出て行った。