第3章 根掘り葉掘り
シェイドは、こちらに向かって滑るように走ってくる男が通りかかった時、自身の影に入った。そのまま男の影に入り込み、その足に銃口をつけて、撃った。両足に。
最初、シェイドはナイフを足に突き立てようか迷った。しかし、彼女の力でこの男のがっしりした足にナイフが刺さっても、抜けなかったら嫌だったので銃を選んだ。
念のため、銃には消音器をつけてあるが、“影”の中で撃つため銃声は聞こえない。
シェイドはがっくりと膝をついた男の背後に素早く出ると、力いっぱい後頭部を素手で殴った。
男は足を撃たれてもなお、手放そうとしなかった鞄をここでやっと手放した。
シェイドは鞄を、よたよたとこちらに走ってくる老婆に返した。
『すぐに仕留めましたので、中は抜かれてないと思います』
「ありがとう、ありがとう……!」
老婆は二度と手放すまいと鞄を強く握った。
シェイドは老婆に警察に連絡するようにお願いすると、老婆は快く承った。
老婆が警察に連絡している間に、シェイドは両足をついた男の前に立って、問うた。
『貴方が何をして、何をされたかわかりますか?』
自分を見上げる男の呼吸が、一瞬止まった。
そして、男はシェイドの目を吸い込まれるように見たまま答える。
「おばあさんの鞄を個性を使って奪いました。私が何をされたかは、わかりません」
シェイドは、「呆れ」もしくは「疲れ」とも取れるため息を漏らすと、男を冷ややかに見下ろしたまま吐き捨てるように言う。
『貴方にはこの後くる警察に自首して、おばあさんにも謝罪をしなさい。貴方の負った怪我は、おばあさんを傷つけた罰です。私はこのまま帰りますが、貴方にはしっかりと罪を償っていただきます。おばあさんへの謝罪を忘れないでください』
ほぼ捲し立てる様になっているが男には届いた。シェイドの6分の怒りと4分の憎悪が。
シェイドは踵を返すと、そのまま歩き出した。帰ると言っていたのは事実の様だ。
「ま、待ってください!」
男が突然呼び止め、シェイドは足を止めた。
「貴女の名前を、教えてください!」
シェイドは男に背を向けたまま、露骨に嫌そうな顔をした。ちなみに、おばあさんにも見えていない。
シェイドは振り向く事なく、怒りに任せて言った。
『犯罪者に名乗る名などございません!』