第5章 縁は異なもの味なもの
それからの私は、休みのたびに都内の百貨店を隈なく探して歩いたけれど、取り扱いがなかったり、ことごとく売り切れていた。
想いは募るばかりで、ため息が増えていく。
しかもその間、彼の夢を見ることはなくて。
どんなに望んでも、棒みたいな拙い似顔絵を書いて枕の下に入れても……朝起きた時の落胆ぶりといったら相当なもので。
でも諦めないんだ、って。柴舟探しが生きる希望みたいになっていたある日、仕事の帰り道に聞き覚えのある鈴の音が聞こえたような気がして。
「猫さん?」
立ち止まって音の方を振り向くと、薄暗くて細い路地が奥の奥まで続いていた。
「こんなところに……」
ー道なんかあったかな
無意識に足を運んだ路地裏で、振り返って見るとどこをどう曲がってきたのかわからなくて。文字通り迷い込んだ私は、かすかに香りを嗅ぎつけた。
「お香のにおい」
その香りをたどって角を曲がると、“薫りや”と書かれた鋳物の看板が下がっている店があった。
古民家を改造した感じのレトロモダンな雰囲気の店のドアを開けると、ドアベルの音がカランコロンと鳴り。
「いらっしゃい」
と奥から出てきた人を見て一瞬言葉を失う。
それは眠りやで出会った……
「佐助、」
「ん?お客さんは、僕のことを知っているようですね? でも私は、一之助です」
そう言われてみれば、ちょっと違うような……でも、佐助にそっくりだ。
「ごめんなさい、とてもよく似ていたものですから」
「他人の空似、とはよくあることです」