第3章 ラブリーディストーションII(徳川家康)
家康は私の顔の横に両腕をつき、上身を起こす。
見下ろされるだけでぞくり、と粟立つ背は、既に身体ごと塗り替えられてしまっているからに他ならない。
「…ねぇ、言ってよ。
言ってくれたら、してあげる。あんたのして欲しいこと、全部」
「…全部?」
「そう、全部」
「…いえやすが、ほしい」
涙混じりの私の声に、いつか聞いたことある台詞だね、と家康は揶揄するように笑うと。
何かの儀式のように、ゆっくりと、厳かに、私に口付ける。
幸せすぎて零れた涙を舐めとり、目尻にも唇を落とすと。
次に見た彼の顔は、もう情欲に塗れていた。
それが私のせいなら、なんて幸せなことだろう――
「いえやすが、ほしい…ずっと、好きだったから」
繰り返すように、確かめるように、もう一度同じ台詞を呟くと。
次に降ってきたのは、まるで何かの始まりを表すような、いつも以上に濃くて甘い口付けだった。
おわり。