第2章 予想通り
「ああ、"紫の上"、私は貴女を怒らせるつもりは無いのだよ?」
森は少し慌てたように晶子に弁解を述べた。
「少し言葉に語弊があったようだね。正確には首領の座に着くのは太宰君、彼1人だ。つまりはだね、"紫の上"、貴女と太宰君が結婚すればいいと思い立ったのだよ!これなら私の望み通りという訳だ!」
その言葉に晶子と芥川を除いた全員はニヤニヤ笑いを堪えることが出来なかった。幹部たちは事前に森のこの思惑を知らされ、全員一致で可決していたらしい。
一瞬目を見開き驚いた晶子であったが、幹部たちの様子から事情を把握し、そして、大笑いした。
「ハッハッハ!皆で妾を出し抜いたという訳か!確かにこれならば、盟約に反してはおらぬな。しかし妾が、拒否するとは思わぬのか?」
と晶子は、鋭い眼差しを森に向けていた。幹部たちはその晶子の視線から一触即発の雰囲気を感じ取り、ギョッと身構えた。
「"紫の上"、お戯れが過ぎますな。どんなに鋭い視線と殺意を向けようと、貴女はこの"命令"を承諾するはず。"双頭の蛇は互いを喰い殺してしまう"。この言葉の意味をお分かりにならない貴女ではない筈だ。」
森は冷静にカップを再び手に取り、紅茶を啜った。
「いや、だけどね、"紫の上"がイヤだって言うなら、全く白紙にしたっていいんだからね?ああ、それとも、太宰君が嫌なのかい?太宰君が嫌なら、他の首領候補からお婿さんを選んでくれてもいいからね?」
と、冷酷な言葉を放った後に、エリスに対するような態度で再び取り繕った。
「ふふっ、鴎外殿、戯れが過ぎたな、すまなかった。勿論、そなたのその言葉の意味を妾は"よく"知っている。
その"命"、謹んでお受けしよう。
無論、相手は太宰で構わぬ。むしろ妾の夫が務まるのは、太宰しかおらぬであろうな。」
晶子は、ふっと穏やかに微笑み、こう答えた。殺意を解き、首領の"お願い"を承諾した晶子に幹部たちは、ホッと胸を撫で下ろした。"交渉が決裂する事も想定して"招集されていた、という点も彼らにはあったからだった。