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卑しき狗の愛憎

第2章 予想通り


緻密な細工の施された把手の観音開きの扉が開かれた。室内は、世界の名だたる五つ星ホテルのような造りで、部屋の中央には、これまた欧州«ヨーロッパ»の邸宅にあるような長いテーブルが設えてあった。
既に席には幹部たちが着いており、一番奥の豪奢な椅子と、その両隣がまだ空席のままだった。
この城の主である森は、当然の如く、一番奥の豪奢な椅子に腰掛けた。

「息災であったか、鴎外殿。」
そう言って、晶子と太宰が後ろに芥川を引き連れやって来た。
「帰ってきて早々に呼び出してしまって悪いね。しかし、君が帰ってきてくれて私はとても嬉しいよ、"紫の上"。」
森は晶子が幼い時から、ずっとこのように呼んでいた。その懐かしい呼び名に少し気恥しい面持ちで咳払いをした。
「鴎外殿、皆の前でその呼び名で呼ぶのは止めて貰えぬか?いくらそなたと妾の間柄とは言え、気恥しい。」
晶子が年頃の娘と変わらぬ反応を示したことに森は、穏やかに微笑む。だが、五大幹部会という公式«オフィシャル»の場での態度を弁えていない訳ではなかった。
「ああ、済まないね。それでも、私にとって貴女は、"愛娘"と言っても過言ではないのですよ、晶子様。私の愛ゆえの言葉として許して貰えると嬉しいよ。」
その言葉に晶子は苦笑いをして
「まぁ、そなたから"先生"と呼ばれるよりはましかのう…?」
「ならばこの場でも、"紫の上"と呼ばせて頂きますね、晶子様。さぁ、こちらの席へお着き下さい。ここが貴女の"居場所"だ。」
そう言うと森はやおら立ち上がり、右隣の席を引き、晶子を席には着かせた。と同時に、晶子の向いに太宰が座った。
森はふと、扉の所に控えていた芥川の姿を認め、声を掛けた。
「芥川君、"先生"のお迎えご苦労だったね。これから大事な話があるから、君は外で待っていてくれるかね。」
芥川は命令通り、礼をして部屋を辞そうとしたその時、
「鴎外殿。芥川を妾の隣に座らせても良いか?」
と晶子が放った言葉に一瞬誰もがぽかんとした。
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