第3章 憎悪と恩寵と思慕
一方フィールドに入った晶子は、異能を発動させた。仄暗い闇が広がる。その中に"それ"は居た。
『晶子よ、我を呼んだかと思えば訓練とは…。』
禍々しい気配を漂わせる"それ"は、晶子の異能でありながら、己の意思を持って言葉を発した。
「全く、妾の異能とは言え、余りにそなたは血の気が多すぎる。殺してはならぬぞ。」
呆れながらも晶子は"それ"に釘を指すのを忘れない。
『それで我は一体何をすれば良い、我が憑代よ。』
少し不服そうな声色で"それ"は、晶子に問い掛けた。
「そなたは陣地を守るがよい。それだけだ、よいな?」
そう晶子が答えると
『よかろう、我が憑代よ…。この"六条御霊"に任せるがよい…。』
と、晶子の異能力"六条御霊"が仄暗い闇から姿を顕す。"それ"は、晶子と瓜二つの姿で、額には二本の角、その身に纏うは蘇芳の唐衣に、紅の袴の十二単の禍々しき鬼神であった。そして、右手には檜扇の代わりに鉄扇を携え、左手には太刀を手にしている。
『晶子よ、汝にこれを。我の憑代たる証、紫焔の太刀。』
"六条御霊"は晶子に太刀を授けた。
「ああ、"六条御霊"よ、参るぞ。」
と晶子は殺気を放ち、鞘を抜いた。