第3章 憎悪と恩寵と思慕
「今日、そなた達の訓練の教官を務める紫条晶子だ。皆の者、宜しく頼むぞ。」
晶子の言葉に訓練を受ける構成員達は、少なからず驚いた。いくら晶子が強いとは言え、一介の構成員達は彼女の姿を見た事が無かったからである。ましてや、先日洋行から帰ったばかりで新しく入ったばかりの構成員なら、晶子の噂すら聞いた事がなかったようでさえあった。
勿論晶子はその事を分かった上で、彼らに問い掛けた。
「早速だが今日の訓練には、このフィールドを使用した屋内での戦闘を想定した訓練だ。こういった戦場の場合、そなたらなら、どのように動くのが正解だと考える?」
晶子は、訓練に参加する構成員達に問うた。
構成員の1人が自信ありげに答える。
「屋内での戦闘は死角が多い為、速やかな判断が必要です。また音で相手に位置を悟られないようにすることや、2人1組で出来るだけ行動する事が大切だと教わりました。」
その答えを聞いた晶子は、
「ふむ、まぁ、模範解答ではあるな…。確かに"通常"の戦闘であれば、それが正しいであろうが、そなたらは曲がりなりにもポートマフィアの構成員。つまり、"通常"が通じない"異能力者"たちの戦闘に巻き込まれるという事だ。しかも、"通常"の戦場より死亡率が格段に上がる。妾から言わせれば、"異能力者"でないそなたらは、ある意味で戦闘の邪魔になる。」と歯に衣着せぬ言葉を投げかける。構成員達は、その言葉に少しざわついた。それは彼等が曲がりなりにもこれ迄に様々な死線を乗り越えてきた戦士達であったからだった。晶子の言葉は、彼らのプライドに火をつけるのには充分だった。
それを察した晶子は、再び言葉を続けた。
「だからこそ、こうした戦場、しかも死亡率が格段に上がる戦場で、そなたらがどのように動くべきかをもう一度問いたい。」
構成員達は、黙り込んでしまう。
「ふふっ、ちと酷な問であったな?異能力者は勿論大切な戦闘力だが、それにも増してそなたらがいてポートマフィアが成り立つ。妾としては、そなたらという戦闘力を削ぐことはポートマフィアにとって損失だと思っておる。その事を考えた上で今日の訓練に臨んで欲しい。」
そう言うと晶子は、難しそうな顔をする構成員達を面白そうに見ていた。