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卑しき狗の愛憎

第3章 憎悪と恩寵と思慕


午前八時、屋敷のベルが鳴った。爺やが扉を開けると、そこには芥川が待っていた。
「僕の名は、芥川。首領の命により先生をお迎えに参上した。」
芥川は、爺やに手短に要件を告げた時、晶子と太宰が2階から降りてきた。
「おはよう、芥川。丁度来る頃合いだろうと思っておった。出迎え、ご苦労。」
そう晶子が声を掛けたが、それよりも芥川は太宰がいることに驚いた。
「太宰さん、何故ここにいらっしゃるのですか!?本部にいらっしゃる筈では!?」
昨晩、太宰と険悪な雰囲気で別れた手前、ここで太宰に会うという想定外の出来事に狼狽した。
「全く君は、朝から喧しいね。私が何処へ行こうと君の知った事では無いだろう?」
と、いつもの様に太宰は芥川を冷遇する。そして、
「それに、この屋敷の主人である晶子は、私の婚約者«フィアンセ»だ。私がここに居ても、何らおかしな事では無いと思うけどね?ねぇ、晶子?」と、隣にいた晶子を抱き寄せ首筋に口付けをして、意味有りげに付け加えた。
「これ、太宰!芥川に変な事を言うでない!」と、晶子は慌てて太宰に訂正させようとした。
しかしその様子を見ていた芥川は、太宰の言葉の意味を理解し、赤面した。そして、赤面したまま
「先生、車が待っています。早くして下さい。」と怒ったように晶子を急かした。
「違う!芥川!断じて今のは太宰の戯言!信じるでない!」
往々にしてこう言った状況で否定をすれば、勘違いをした者は余計に勘違いをするものである。
「先生、そう言った事は太宰さんとお二人の時だけにして下さい。僕が申し上げられる事はそれだけです。」
そう言うと芥川は恥ずかしそうに、先に待たせていた車の中に戻ってしまった。その様子を見ていた太宰は、可笑しそうに大笑いした。
「アッハッハ!いやー、全く彼はそういう所に関しては、素直なんだけどね。ついつい、意地悪してやりたくなったのだよ。ダシに使って悪かったね、晶子。」
「はぁ…。そなたの悪戯もここまで来るとタチが悪い。妾の事は良いが、芥川を虐め過ぎだ。少しは優しく出来ぬのか…。」
ようやく太宰の真意が分かった晶子は、すっかり呆れていた。
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