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卑しき狗の愛憎

第3章 憎悪と恩寵と思慕


洋館へ戻ると、芳ばしい麦の香りに包まれた。今朝の朝食は洋食のようだった。晶子は太宰を連れ、食堂«ダイニング»に入った。
「おはようございます、姫様。おや、これこれは太宰様。お早いお迎えでございますね、いらっしゃった事に気付かず、申し訳ございませんでした。」
と、朝食の支度を整えて爺やが手を止め、朝の挨拶をした。が、直ぐに何も言わずに太宰の分の席を晶子の横に整え始めた。
「太宰よ、1度着替えてくる。そなたはここで待っていてくれ。」
そう言って晶子は、太宰を席に着かせ、2階の自室へと向かった。

太宰に爺やが声を掛ける。
「太宰様、この度は我が主人との御婚約の事、おめでとうございます。どうぞ姫様を宜しく御願い致します。」
爺やは、改まってお辞儀をし、太宰に礼を述べた。
「爺やさん、貴方のお考えの事は分かっています。晶子の事は、この私が最後までお守りします。安心して下さい。」
太宰は、限りなく優しい笑みを浮かべて爺やに応えた。
「貴方と姫様は、互いをよく分かっていらっしゃる。そしてまた、貴方は姫様のお辛い過去もよくご存知だ。私も家政婦長も貴方なら安心して姫様をお任せ出来ます。」
爺やは顔には出さなかったが、主人である晶子への並々ならぬ想いがある事を言葉の端々に滲ませていた。その爺やの眼差しを太宰はしっかりと受け止めた。そして、また爺やも太宰の決意を感じ取った。

「おお、失礼致しました、太宰様。このお話は爺の独り言と思うて、お忘れ下さい。姫様がお聞きになったら、私も家政婦長も怒られてしまいますので。さて、紅茶と珈琲どちらを召し上がられますかな?」
と爺やは、嬉しそうに笑っていた。
「そうだね、珈琲を貰おうかな。」
と太宰は、ウィンクした。
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