第2章 予想通り
本部へと戻る車の中、物憂げな表情で窓の外を眺めている太宰に、芥川は声を掛けた。
「太宰さん、お疲れですか。」
心と言葉が裏腹に、全く意味の無い質問を芥川は太宰に投げかけた。
「ん、ああ…。少しだけね。」
そして、再び沈黙が訪れた。
今度は太宰が口を開いた。
「芥川君、君は何か私に言いたい事があるようだね。言ってみたまえよ。あの人の事だろう?」
それは図星だった。そして、急激に込み上げた晶子に対する怒りのままに、太宰に思った事をぶつけた。
「太宰さん、何故首領の命令とは言え、貴方があのような人と婚姻を結ばなくてはいけないのですか!あのように"心の弱い"人間が貴方の隣にいる資格など有りはしない!」
太宰は、芥川のその言葉に冷ややかに答えた。
「君は、晶子の何を知っているんだい?まぁ、思っていた通りの事を聞くのだね、君は。」
芥川などに晶子の何が理解出来るのだろう。私の事さえ理解し得ない君が、と太宰は心の中で芥川を罵った。
「はぁ…。もういい。君と居ると息が詰まりそうだ。ここで私を下ろしてくれないか?」
太宰は不意に車を停めた。
「しかし…、太宰さん!僕は何も間違ってなど…!」
芥川は食い下がる。
「全く君の想像力の乏しさには、困ったものだね。」
太宰はひらりと車を降り、扉を閉めながら
「"王様"は何故"偉い"のか、これが分かるかい?」
という謎を芥川に残し、去っていった。
「"王"たる存在が"偉大"なのは、"王"が唯一"赦し"を与えられる存在だからさ…。」
夜のヨコハマの街角で太宰はそっと呟くのだった。