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卑しき狗の愛憎

第2章 予想通り


鎌倉の屋敷、それは蜻蛉御殿と呼ばれていた。そして紫条家が大戦以前にお上から爵位と共に与えられた土地であった。
当時の栄華を思わせる瀟洒なアール・デコの洋館と純日本風のこじんまりとした離れが、人の目に付かぬよう広大な敷地の中にある。

車は洋館のポーチに着いた。屋敷の玄関扉の前には迎えの者たちがいた。長年勤めてきたであろう威厳と誇りを備えた家令と家政婦長の2人。この屋敷に住まうのはこの2人と、主人の晶子だけだった。
「お帰りなさいませ、姫様。」
「出迎えありがとう、爺や、婆や。」
家令は車の扉を開け、晶子の手を取って出迎えた。反対側から太宰が降りてきた。
「晶子、長旅に加え、首領からの呼び出しで疲れただろう?今日は早くお休み。また明日お迎えに上がるよ。ではね、私の美しい婚約者«フィアンセ»殿?」
妖艶な笑みを浮かべ、太宰は再び晶子の手の甲に口付けした。
爺やが太宰に声を掛ける。
「太宰様、姫様を送って頂き、ありがとうございました。お休みなさいませ。」
もうその時には、晶子も少しはまともな顔をして、太宰におやすみと一言応える事ができた。

間もなく車はポーチを出ると、元来た道を辿り、そのうちにテールランプも見えなくなった。
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