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卑しき狗の愛憎

第2章 予想通り


薄々感づいていたことで、逃れようがなかった。本部から鎌倉の屋敷へと向かう車の中で晶子は、首領の"お願い"のことを考えていた。
それは、ポートマフィアという組織の為でしかなく、そこに己の感情を挟む、挟まないという次元のことを考えていたのではなかった。たった一つ、太宰の本心からのプロポーズが痛い程、苦しかったのだ。

晶子が太宰と出会ったのは、ほんの数年前の事だった。あの頃の晶子は、今よりも笑わなかった。ただ殺戮を繰り返すだけの日々を送り、それでも己の持つその力で奪うことを止める事は出来なかった。それが一族に代々伝わってきた強力な異能力に対する己の義務であり、己に対する"罰"だと思ってきたからだった。そんな時に出会った太宰もまた、同じような目をしていた。会った瞬間に互いは鏡同士だと気付いた。晶子にとって、それがどれだけの救いだったか。

生きる事を諦め、ただ死を見詰めねばならない、それをたった1人で見詰め続けるというのは、何たる孤独だろうか。それでも、"絶対者"として孤独の頂に君臨する事が出来たのは、2人ともが"絶対者"同士だったからだった。

しかしだからこそ、晶子は太宰がこれ以上自分と同じ孤独の頂にい続ける、しかも、自分のために更に生きる事から遠ざかろうとする事が心苦しかった。
首領の"お願い"は、ポートマフィアの為だと太宰が言い切ってくれたらどれ程良かっただろうか。

何も言わず晶子は、窓の外を眺めていた。表情を悟られたくはなかった。自分でもどんな顔をしているか分からなかった。
同乗していた太宰も、芥川も晶子の気持ちを察していたのか、窓の外を眺めていた。
小一時間も車を走らせ、ようやく鎌倉の街へと入っていった。
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