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卑しき狗の愛憎

第2章 予想通り


それはあまりに気障なプロポーズだったが、太宰にとって、本気のプロポーズだった。

晶子もその事は、分かっていた。しかし、晶子にとって太宰は、恋愛対象というよりも似た者同士、合わせ鏡のような存在だった。晶子は、一瞬顔を歪め、泣きたいような気持ちに襲われた。苦しい胸の内をきっと太宰は、見逃さなかっただろうとも思った。

その様子を見ていた首領や、幹部たちは再び凍りついたように静まり返った。
晶子は、やっとの思いで言葉を紡ぎ出した。
「ふっ、太宰よ、プロポーズというのに心中という言葉を出すとは、どこまでも酔狂よのう。
そなたが望むならば、妾は地獄までも共に参ろうぞ。」
これが精一杯の言葉だった。
その晶子の言葉に益々首領はご満悦であったし、幹部たちもまた然りであった。

しかし晶子の隣に座っていた芥川だけは、何も言わず、冷静だった。確かに組織の為とはいえ、首領の、太宰と晶子の婚姻という発想には驚いた。しかしその冷静さは、このお茶会«ティーパーティー»に場違いな存在で、口を挟む余地もないことを弁えていたからであった。全く関わりの無い、雲の上の話のように思っていた。そもそも初対面の晶子が、何故自分をここに呼んだのか。全くその真意が理解出来なかった。
ただ一瞬だが、隣に座っていた晶子の声が微かに震えていたように感じた。もしそうだとしたら、この晶子という人物は己が思っている程の人間ではないのでは無いかと、少し失望したように思ったし、そんな人間と何故太宰さんが婚姻を結ばねばならぬのかと不思議に思っていた。
そうやって、この退屈なお茶会«ティーパーティー»で芥川は、この晶子という人物をつぶさに観察し、これらの出来事を理解しようと努めていた。気付けば芥川の前に置かれたティーカップは、まだ並々と残っているのにすっかり冷めてしまっていた。
それと同時に、このお茶会«ティーパーティー»もお開きとなった。
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