第3章 声
「ねえ」
ふと声が聞こえた。
聞こえた気がした。
一人きりの部屋で
後ろから聞こえた誰かの声。
信じられないけれど、
それは聞き覚えのある声。
でも信じられない。
だって聞こえるはずのない声だから。
それでも
高鳴る鼓動が抑えきれない。
現実と戦いながら
ゆっくりと振り返ろうとしたら
「見ないで」
身体は硬直しつづける。
振り返らずにそのまま前を見つづける。
信じられないけれど
確かに聞こえてくる声を
しっかりと感じながら。
「俺はここにいるよ」
「・・・・・」
「いいじゃん、だから」
「・・・・・」
「欲張ってんの?」
聞こえてくる声は
確かに彼の声で。
恋しくて 恋しくて 恋しい
彼の声
頭の中で
今、起きていることを
理解しようと、必死だけど
ワケがわからなくて
ただ
涙が、頬をつたって
首まで流れ落ちる。
「バーカ」
少しだけ、彼の声が近くなった気がした
「なに泣いてんの」
振り返ることができずに
ただ、ただ
彼の声に、耳を傾ける。
「いるから」
「泣くなら、傍にいるから」
声が、耳に近くて
彼の声が、聞こえて。
とっても、愛しい・・
呼吸をするだけで
それは
とけそうな
恋の、魔法。