第2章 夢幻
意識がハッキリとしない。重たい頭は質感の良い枕に沈み、数秒遅れて眠っていた事実を理解した。
それにしても変だ。ほんの数十分前の事すら思い出せない。私の身に何が起こったのか、此処は一体何処なのか、どうして私は眠っていたのか。あらゆる情報が欠如し私を狼狽させる。
取り敢えず今の状況を確認しようと頭が働いたのか、それ迄感じなかった手足の感覚が蘇ってきた。様々な身体機能が覚醒するにつれて、身体が通常とは違って火照っている事に気付く。
何だか無性に暑い……そう思った矢先、太腿に擽ったさを感じて、鉛のような頭を少し持ち上げ自分の股下を見遣る。するとそこには、私の下着を剥ぎ取ろうとしている爆心地がいた。
「なっ……?!」
「んぁ?ちっ、起きたのかよ……めんどくせぇ」
さも目覚めた私が悪いかのように吐き捨てた爆心地は、驚きで固まる私を他所にショーツを一気に下ろし床に投げ捨てた。訳が分からず顔に熱が集中する。そこで初めて、自分が一糸纏わぬ姿になっている事を自覚した。
「何してっ……!!」
「男と女がベッドで裸になってする事っつったら決まってんだろ。……まさかお前、まだ赤ちゃんはコウノトリが運んでくるとか思ってる口か?」
「そういう事じゃなくてっ……ち、近付かないで下さい!!」
あまりにサラッと言われたものだから流されそうになったが、我に返って距離をとる。と言っても、まだ満足に身体を動かせないので、ダブルベッドの隅に寄っただけなのだが。
それに、少しも恥じる様子なく『裸になって』と言ってはいるが、裸になっているのは私だけで、爆心地は黒のタンクトップにジーンズをしっかりと着用している。これでは私が一方的に脱がされただけだ。
「あー……やっぱ寝てる間にヤっちまえば良かった……」
物騒な言葉を口にしながら頭を搔く爆心地は、普段の彼の行動も相俟ってかいよいよ本物のヴィランだ。通報すればヒーローとして命の次に大事な免許の剥奪は免れない。分かってやっているのか、この人は。
「これ以上近寄れば熱湯を浴びせますっ」
片方の手で胸を隠しながら、空いた手を爆心地に向ける。義憤と羞恥で涙目になりながら睨む私とは対照的に、爆心地は挑戦的な笑みを浮かべてじりじりと迫って来た。