第3章 変革
激動の一日が過ぎ、深い眠りから覚めた身体を起こす。私の部屋だと言われて連れてこられたこの空間は、爆心地に襲われた場所だった。
「っ…………」
抗おうにも思い出すあの体験。爆心地の息遣いも、逞しい身体も、彼の内側を猛火の如く体現する下半身も、全てを覚えている。胸が苦しいはずなのに、身体の芯は疼いて疼いてどうしようもない。これが女の性だと思うととても虚しくなった。
「あれ……?」
ベッドから降りようとすると、ベッドサイドに置いてあった一台のスマホが目に入った。ネイビーの手帳型ケースに包まれたそれは、私が普段使っているものだ。何故ここにあるのだろうと手に取ると、視界の端に段ボールが何箱か積まれているのを捉えた。
「……私のだ」
中を開けてみると、私の服やら下着やらが入っていた。
「そう言えば届くって言ってたな」
そこで初めて出久が言っていたことを思い出す。昨日の記憶が朧気なのは私の精神面からくる問題だろうが、もう、思い出すのも億劫だった。
しかし、スマホを見つめている時に外部との連絡許可を貰っていた事を思い出し、咄嗟にホームボタンを押す。すると、ディスプレイには母親からのメッセージが表示されていた。
『ヒーローの人達から聞いた。しばらく会えなくなるみたい。』
『母は心配です』
『元気?大丈夫?』
『まだ荷物届いてないか』
『見たらすぐ連絡して』
綴られる母からの文字は心細かった私の心にじんわりと染み込んでいく。画面が滲んで先を読むことが出来ない。それでも、震える指先でキーボードをタップする。
『無事です』
たった四文字されど四文字の言葉は、電波に乗って母の端末に届いただろう。本当は泣きつきたい。全てを話して楽になってしまいたい。そんな気持ちが溢れ出ては出久の言葉がかき消していく。
«君の存在を抹消する»
彼の目は本気だった。お前の逃げ場はもうないと、此処から逃げるとて帰る場所はもうないのだと、残酷に粛々と告げていた。
「っ……」
とめどなく流れ出る涙を拭い、ポケットにスマホを閉まって頬を叩く。
____負けんな。
自分にそう言い聞かせて、部屋に備え付けられている浴室でシャワーを浴びる。サッパリした気持ちで出ると、いつの間に入って来たのか出久がベッドに腰掛けていた。