第5章 pavane
「アイスコーヒーひとつ」
「かしこまりました!」
とは言え、今はお昼のかきいれ時。
彼の存在ばかりにかまけてはいられないし、ここにいる限り逃げも隠れもできない事くらい、分かっている。
アイスコーヒーね、と備え付けのアイスストッカーから氷を掬う…
開けた瞬間ひやり、と漂うささやかな冷気ですら気持ちいいほど、今日は暑い。
立ち上がる度にふらり、と足がよろめくほど、暑さと思考で脳味噌が茹だるような感覚。
「今日は、あの兄ちゃんは来てないんだな」
「…え?」
「あの、刑事の兄ちゃんだよ。ちゃんにゾッコンじゃねぇか!」
「そ、そんなこと…!」
「毎日のように顔を見に来やがるから、俺がちゃんと話せねぇ」
馴染みのおじさんにそう声をかけられ。
小さく睨みながら、注文のアイスコーヒーを渡す。
「俺はカフェラテ、氷多めにしといてくれよ。
俺はあいつは好かねぇな、姉ちゃんを大量にはべらかしてんだろ?」
「…ほんとに、その通りですよね」
これまた馴染みのおじさまのカフェラテのために、カップに氷を満タン。
そこへフォームしたミルクをそっと注ぎながら、自分の声のトーンが何故か下がったのに気づく。
…どうして、私が落ち込まなきゃいけないの…そんな風に首を傾げてみるけれど、おじ様たちは意味ありげに笑うばかり。