第3章 【閑話休題】Trio
…ビン。硝子の、瓶…
刑事さんを見送りつつ、鮮明に頭によぎる――
昨晩の、けたたましい程の物音。
パリン、と硝子が硬いものにぶつかって、砕け散るような音…
「?ねぇ、どうかしたの」
シンの呼び声に、はっと我に返る。
「…その包帯、自分でまいたの?巻き直してあげるね」
思わずじっと見てしまった、腕の包帯がよれているのに気づき、そう声をかけると。
シンはお願い、と…先程までより格段に機嫌の良い笑顔で、腕を差し出した。
「利き腕だから、巻きにくかったでしょ?いいの、こんなのつけてても…お仕事には支障ない?」
「大丈夫。そういうコンセプトに変えてくれたから」
包帯を巻き終わると同時に、シンはマキアートを飲み干して。
もう行くね、と笑ってくれるから、頑張ってね、と返す…
いつも通りのやり取り、しかしシンは歩きだそうとしたのを止めて、ゆっくりと振り返る。
「…そうだ、。
やっぱり、あの刑事には近付かない方がいいよ」
そう言うシンの表情は、また、ゾッとするほど冷たい。
別に、私から近付いてる訳じゃない…なんて。
何を言っても無駄だろうと、反論を諦めこくりと頷く。
「…良い子」
頭を撫でてくれるシンの優しい手を、怖いと思うなんてどうかしているのに。
ぞわぞわと波立つ胸の内の止め方が分からなくて、シンが立ち去った後も、暫くあの音が耳にこびりついて離れなかった。