第3章 【閑話休題】Trio
「おっはよー、ちゃん!」
思わず呆気に取られた私が返した、どうも、なんて無愛想な返事に。
カウンター越しに、刑事さんは不思議そうな表情を浮かべた。
「なになに?ちゃん、低血圧?」
「…後ろがつかえてるので、ご注文お伺いしますね」
笑顔がご所望なら、と。
無理やり作った、今できる限りの笑みを浮かべる。
刑事さんは意外とすんなりと、ホットひとつね、とオーダーをして。
カウンターに肘をつき、ふんふんと鼻歌なんかを歌っている。
…昨日の事は、悪い夢だったんだ。
こっちは何故だかあんまり寝付けなくて、今でもモヤモヤしているというのに。
彼は私が珈琲を入れるのをじっと見つめ、いつも通り変わらないにやけ顔をするばかり。
「…どーぞ、お待たせしました」
あっつあつの珈琲を浴びせてやったらどうなるだろう、なんて一瞬考えたけれど。
珈琲に罪はないし、増してや客評が悪くなっては困る、なんて思い直し。
ほかのお客様にそうするように、両手を添えて丁重にお渡しする。
「ありがとー!
ま、昨日も遅かったし。
寝不足でご機嫌ナナメなのも無理ないよねー」
「…は、あ…!!?」
そんな風に、丁寧に扱って差し上げたにも関わらず。
彼の言葉に、皆が一斉に顔を上げた。
後ろに並んでくれている、彼の追っかけらしきお姉さま方の視線が痛い。
彼の『どうせここに来たなら、珈琲飲みなよー。美味しいんだからさ』なんて軽い一声で、ただ人垣を作るだけじゃなくてお客様になってくれるのだから…
売上的にはそれはそれは有難い、のだけれど…!