第2章 Prelude
ひたすらに真っ直ぐの通りを歩いていく後ろ姿を見つめ、ぼんやりと立ち尽くす。
遥か向こう、小さくなった彼が振り返って。
こちらに向かい、投げキッスの様な仕草をした。
それに、思わず吹き出してしまって。
我に返った様に、私も今度こそ、エントランスへの階段をもう一段上がる。
もし、私が何も後暗い所の無い、一般市民なら。
もし、私がただの女の子なら…
今夜のこんなくだらないやりとりを、少しは楽しめたのかもしれない。
そんな事をふわふわと考えている頭を、現実に引き戻すように。
何処か程近くで、ぱりん、と硝子の割れるような音がした。
もう、すっかり夜も更けている。
いくらミドルクラスの街とは言え、酔っぱらい同士の喧嘩くらいは日常茶飯事だ――
巻き込まれては困る、と、足早に階段を駆け上る。
最後に振り返った真っ暗な通りには、誰の姿も見えなかった。