第6章 虎の少年
「ハァ…ハァ…助かったよ少年」
「ケホッケホッ……いえ」
敦は河で流されていた二人を河辺に上げた。
少女の方は意識もあったが、男の方は未だ目覚めない。
少女は起き上がり、自分の服を取りに行く。
敦がチラッと男を見ると男は急に起き上がった。
「あんた川に流されてて…大丈夫?」
敦の問いかけには答えず、男はキョロキョロと周りを見渡している。
「…助かったか……………ちぇっ」
男は敦に向き直る。
「君かい?私の入水を邪魔したのは」
「邪魔なんて、僕はただ助けようと……入水?」
「知らんかね入水。つまり自殺だよ」
「…………は?」
敦は呆れ顔で男を見ていた。
すると、男の後ろから先刻の少女がタオルを投げつけた。
「痛っ!…あ、葉琉!君も来てたのかい?」
男は敦と話していた時とは違う明るい口調で葉琉と呼ばれる少女を見た。
「あれ?何で葉琉も濡れているんだい?」
「なんで…?治ちゃんが河に流れてたからでしょ!?私が助けようと思って河に入ったら、足滑らせて一緒に流されそうになってた所を!この少年が助けてくれたの!」
葉琉は敦を指した。男はその指を追うように敦を見た。
「それは済まない事をした。何かお詫びをーー」
男が話し終える前に敦のお腹が鳴った。
「……空腹かい少年?」
「実はここ数日何も食べてなくて…」
次は敦が話し終える前に男のお腹が鳴った。
「私もだ。因みに財布も流されたれた」
男はあっけらかんとした表情で言った。
後ろでは葉琉が深い溜息を吐いていた。