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明るみの花【文豪ストレイドッグス】

第15章 DEAD APPLE


脚元に次々と氷の塊を出現させて行く。硝子の階段を駆け下りるように、龍を避けて骸砦へ向かう。

たぶん、中也は汚濁を遣う心算だろう。あの技は太宰が居てこそ成り立つ技で、ストッパー役の太宰が居ないと暴走と変わりない。だが、何故か、葉琉はあの龍の中に太宰が居るのでは、と思えてならなかった。生きているのか、死んでいるのかも判らない太宰に望みを掛けるのは可笑しな話だ。それでも、葉琉は太宰を信じていた。

砦の中階層に達した葉琉は、壁に穴を開け、中に飛び込む。葉月は上にいるように思えた。葉琉は躊躇うことなく脚を進める。周りの気配を探っていると、人とは違う"何か"の気配を察する。その"何か"は纏わりつくような気配で葉琉を誘っている。望むところだ、と葉琉はその気配の先に向かった。




辿り着いたのは天井の高い広間。まるで舞踏会の会場のように広い部屋だ。中にいたのは一人の中老の男と、その男の後ろに眠るように座る葉月。この男も、澁澤を手引きした一人なのだろうと直感で感じた。

「貴方が誰なのか知りませんが、後ろに眠っているのは私の姉です。引き取らせて頂きます」

相手の出方を伺うように、冷静に声をかける。男は余裕そうに佇んでいるが、葉琉から見たら隙のない構えに映った。
不意に、男の口元が歪み、不敵な笑みをこぼす。

「君は何も知らないのだね。君のお姉さんも、太宰君も、何も教えてはくれなかったのだね」

ーー何故ここで葉月が、治ちゃんがでてくるのか。

「君が一番の関係者だというのに」

ーー私が一番?この人何云ってるの……

動揺が見え隠れする葉琉に、男は続けた。

「では、先ずは自己紹介といこう。私の本名は荘子と云う。君にはちゃんと名乗っておかないと失礼だからね。一部の界隈からは『夢の旅人』なんて呼ばれている」

男、荘子の仕草は舞台で挨拶をする役者のように華やかさを帯びていた。荘子を一瞥している葉琉に構うことなく、荘子の話は続く。

「そうだねぇ。君の遣る気を出す為にはどうしたら良いか……そうだ」

手品の様に取り出した短刀を手中におさめる。にやりと笑う荘子が、その短刀を自分の後方へ投げたのだ。
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