第15章 DEAD APPLE
安吾は葉琉に向き直り「来てくださり、有難う御座います」と告げる。葉琉は「なんもなんも」と笑顔で応えた。
安吾が床に投げ飛ばされていた理由も、なんとなく予想はついている。中也が呼ばれた理由も、だ。
「おい、葉月は何処だ」
中也の発した言葉にそう言えば一緒に居ないな、と気付いた。しかし、それを安吾に尋ねた理由が判らない。
「何のこと?」と安吾と中也の顔を交互に見る。安吾は眼鏡を指で直し「葉月さんは…」と一度言葉を切り、ちらりと葉琉を見てから中也に視線を戻す。
「太宰君に連れて行かれました」
少し躊躇いがちに安吾が答えた。中也ははぁっと溜息を零しながら
「そんなこったろうと思ったぜ」と呟く。
葉琉は逆に納得した。葉月が太宰と一緒に骸砦にいるというのだ。彼処は霧から飛び出た高い塔だ。葉月は霧に触れない。
「それで異能力が遣えるわけね」
「大方、それが狙いだろうな」
中也も不本意だが納得していた。「しかし」と安吾が目を伏せる。
「葉月さんは薬を盛られたようで、意識が無い状態で連れて行かれました。もしかしたらもう…」
「手前の眼鏡は飾りか?」中也の呆れた声が響く。安吾は顔をあげ「貴方は心配ではないのですか?」と尋ねる。中也は更に溜息を重ねた。
「葉月は裏社会を生きるマフィアだ。太宰が相手だろうが、簡単に薬を盛られる様なヘマはしねぇよ」
「自分の考えがあったか、或は……こりゃあ治ちゃんも一枚噛んでるかな?」
指を顎にあて、考える姿勢をとる葉琉。たぶん、葉月は葉琉が異能力を遣えるように態と囚われたのではないか、と。それに太宰が気付かない訳がないので、太宰もその葉月の意図を知っていて連れて行ったのではないか、と。
不意に、中也は頸元にある見慣れぬモノに手を伸ばす。
「何それ」と覗きこむと、どうやらネックレスのようだ。中也はその筒を適当に空いてる机に置き、拳を打つけて破壊した。中からは小さいチップの様な媒体が出てきたのだ。
「教授眼鏡、これを画面にだせ」
中也は安吾にそのチップを渡した。