第15章 DEAD APPLE
ヨコハマの街を見下ろす丘にある墓地。その一つの墓標に凭れ掛かる様に座る少女、萩原葉琉。葉琉の膝には太宰治が寝そべり瞼を閉じていた。葉琉は愉しそうにお喋りしている。だが、太宰がそれに応えることはない。何故なら、葉琉が話し掛けているのは背中合わせに座る友人に向けてだからだ。
葉琉は話すのを止め、墓標の正面に視線を向ける。近付いてくる人の気配を感じたからだ。近付いて来た少年、中島敦はそっと墓に向かって手を合わせた。
「誰のお墓か判ってるの?」
葉琉の問いに敦はきょとんとした顔で「いえ…でも葉琉さん達にとって大事な人なんですよね?」と視線を暮石に向けた。即答した敦に葉琉はくすりと笑い、太宰も薄笑いを浮かべて起き上がり敦に尋ねた。
「……何故そう思う?」
「太宰さん達が御墓参りなんて初めて見ますから」
「これが御墓参りしているように見えるかい?」
おどけた太宰に敦は首肯し「見えますけど」と答えた。「敦君は素直だね」と葉琉が笑うと、太宰もゆっくり微笑んだ。