第14章 【SS】慰安旅行
少し経つと葉琉の代わりに与謝野に付き合わされた国木田が潰れ、賢治は満腹で眠り出した。残りはまだまだ宴会を続けている。葉琉は猫のストラップが付いている自分の端末が震えている事に気が付き画面を確認した。そっと立ち上がると太宰が「如何したの?」と尋ねてくる。
「一寸ね」
葉琉はそのまま部屋を出て、女性部屋へ戻った。
「もしもし」
『おう、葉琉。俺だ』
「この電話は現在ーー」
『話くらい聞け!』
声で誰か直ぐに判った。
「急に電話なんて何の用?中也」
『手前、暇か?』
「あら、デートのお誘い?葉月に言いつけちゃお」
『違ェよ、莫迦!これから葉月と花火やるンだけど、手前も来ねぇか?』
「…は?」
『次、何時こんな機会があるか判ンねぇからな。葉月も手前に逢いたがってるだろうし』
「本当、葉月の事になると優しいよねぇ。中也は」
『ほっとけ』
「いいよ、行ってあげても。こっちも宴会中でたぶん遅くまで続くと思うから、抜け出せると思う」
『悪ィな、無理言って』
「何よ今更」
場所を確認し、電話を切った。浴衣から着替えて準備に取り掛かる。太宰に一言伝えようか悩んでいると、扉から気配を感じた。
「お出掛けかい?葉琉」
入り口には扉に凭れかかるように太宰が立っていた。
「私を出し抜くのは百年早いよ」
顔は笑っているが黙って抜けようとした事を怒っているのだろう。黒いオーラが出ている。
「一寸出てくる」
「何処へだい?」
「海」
「一人でかい?」
「葉月も一緒」
敢えて中也の名前は出さなかった。しかし、太宰は中也もいる事はお見通しだろう。
「治ちゃんは皆と呑んでてよ。ちゃんと戻って来るから」
太宰の横を通り抜けようとすると腕を掴まれた。
「…放して。私が本気で逃げたら流石の治ちゃんでも捕まえられないよ」
「判っているさ、そんなこと。だから…」
太宰はごそごそと懐から自分の着替えを取り出し「私も一緒に行くよ」と微笑んだ。葉琉は一瞬驚いたが、直ぐに笑い出し「中也と喧嘩しないでよ」と言った。