第14章 【SS】慰安旅行
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太宰と葉琉が戻ってからも暫くは海で遊んでいた。陽が傾く頃、旅館へ戻り温泉へ行く事にした。
ーー女性部屋ーー
「葉琉、浴衣は全員分有るのかい?」
「有りますよ。与謝野さんならこのサイズかと」
葉琉は取り出した浴衣を与謝野に渡し、ナオミと鏡花にも渡した。浴衣は皆同じ若草色の物だ。各自着替えを行う。その時、隣の部屋から激しい物音と国木田の声が聞こえた。
「……何だい。騒がしいねェ」
与謝野は呆れ顔で壁を見つめる。その壁の先は男性用の大部屋となっている。大体の予想は付くが、与謝野もナオミも鏡花も、勿論葉琉も考えることを止めにした。
ーー男性部屋ーー
「「疲れた〜」」
部屋に入るなり乱歩と太宰は畳の上に転がった。国木田は温泉に行く為にテキパキと浴衣を配っていた。
「社長、これをお遣い下さい。谷崎達も取りに来い」
国木田に呼ばれた三人は浴衣を受け取り着替え始めた。
「太宰!貴様、何時まで寝ている!このままでは予定通りに進まん!乱歩さんも、行きますよ!」
国木田が手帖を見乍、太宰に浴衣を投げ付けた。乱歩へは勿論、手渡しだ。
「痛いよ〜国木田君」
太宰と乱歩はのそのそと着替えを始める。太宰は着替えが終わると閃いたように両手を合わせた。
「そうだ!温泉に頭から浸かれば…!」
「止せ!此処で自殺の算段を立てるな!」
「違うよ〜。国木田君、知らないの?温泉に頭から入ると血行が良くなって身体疲労に効くのだよ」
「なっ!そうなのか!?」
「ほら、メモしてメモ」
そんな訳がない。と云う敦と谷崎の視線に気付く事なく国木田は手帖にペンを走らせた。乱歩は面白がって教える気はない。太宰の「嘘だけど」という言葉が静かな部屋に響き、次に聞こえたのは国木田の万年筆が折れた音だった。
「貴様ぁぁぁああ!」
「あはははははは」
国木田は太宰の頸を掴み激しく揺さぶる。敦が慌てて仲裁に入ろうとした。
「国木田さん、落ち着いて下さい」
「ぁあ!?」
「ひっ!」
「まぁまぁ、国木田さん。ここは旅館ですし、落ち着きましょう」
谷崎に止められて漸く国木田の怒りは収まった。