第14章 【SS】慰安旅行
「敦君?」
驚いた表情で見上げる葉琉に、敦は慌てて手を離し「済みません!」と謝った。
「一応私、敦君より年上だからね」
そう言ってにっこりと笑う葉琉の背後に敦だけが気付く太宰の鋭い視線が向けられていた。敦は慌てて鏡花達を追いかけて行く。「如何したの?敦君」と云う葉琉の声に応えることなく走って行った。
「葉琉、浮き輪は借りれたかい?」
「あ、治ちゃん。借りれたよ」
何時もの太宰ににっこりと笑う葉琉に太宰はよしよしと頭を撫でた。そして、葉琉が持っていた浮き輪を持ってくれる。
「この浮き輪、少し大きくないかい?」
「あぁ、これ私が使うんじゃあないよ。どうせ治ちゃんが海に入りたがらないと思ったから、せめて浮ける様にと思ったの」
太宰の心の中で何かが鳴った。片手で顔を隠す様に覆い、葉琉の頭を更に撫でた。
「葉琉、私以外にこんな事してはいけないよ」
「?判ったよ」
太宰はるんるんで浮き輪を持って行く。葉琉は(なんか治ちゃんも楽しそうで良かった)と思い乍後について行った。
国木田に「昼食までには戻る様に」と言われ、それまで各々好きなことをしていた。
敦、鏡花、賢治は初めは海に入って遊んでいたが、浜に上がり与謝野を交えて敦を埋めて砂で躰を作っている。国木田は敷物近くに仁王立ちでまるで監督の如く周辺の様子を伺っている。
太宰と葉琉は海にいた。太宰は浮き輪に仰向けに寝そべり、浮かんでいる。葉琉がその浮き輪を泳いで引っ張る。遊泳区域ぎりぎりまで来ると殆ど人が居なかった。葉琉は浮き輪なしでぷかぷかと仰向けで躰を浮かせた。
「……ねぇ、治ちゃん。なんか胸騒ぎがするの。これから何か大きな事が起きる様な、そんな胸騒ぎ」
太宰は何も答えなかった。
「ごめん、折角の旅行でこんな話ダメだね」
そう言って葉琉はざぶんと海の中へ潜って行った。
太宰は空を見上げ、漂う雲を見つめている。
海から顔を出した葉琉は唯空を見上げる太宰が少し気になった。
「治ちゃん?」
「……葉琉…気持ち悪い」
「そりゃあ水にも入らず太陽に当たったらそうなるよ!」
日射病という奴だろう。葉琉は急いで太宰を引いて岸まで泳いだ。