第12章 双つの黒と花の役割
「いやぁ、無理無理。諦めて死のう!もう残った手は『一つしか無い』しね!」
葉月はピクリと反応し「まさか…」と呟やき、中也を見る。中也は太宰を見つめた儘「『汚濁』をやる気か?」と尋ねた。
「私達二人が"双黒"なんて呼ばれ出したのは、『汚濁』を使い一晩で敵対組織を建物ごと壊滅させた日からだ。ただし、私の援護が遅れれば中也が死ぬ」
「そんな事させません」
俯く葉月に視線が集中する。葉琉は心配そうに葉月を見つめた。
「此処には私達がいるから、必ず太宰さんを中也の処に導くから、中也は死なせない」
「でも葉月ちゃん、【漂泊者】を使うのは…」
「中也も命懸けてるんです。私も何もしないなんて厭です」
真っ直ぐな葉月の瞳に太宰は「判った」と答える。葉琉の中で何かのピースが嵌る音が聞こえた。それは葉琉が抱いていた疑問に対する答えを導き出す物だった。
「葉琉も大丈夫かい?」
突然名前を呼ばれ、慌てて「私は何時でも大丈夫だよ」と答えた。
三人は中也に視線を向けた。
「準備は整った。私達を信じるか、信じないか。選択は任せるよ」
「…選択は任せるだと?手前がそれを云う時はなァ……何時だって他に選択肢なんか無ぇんだよ!」
中也は葉月に歩み寄りぽすっと自分の被っていた帽子を被せた。
「持ってろ、すぐ終わらしてくッから」
「中也…」
中也は葉月の耳元に顔を寄せると、内緒話でもする様に小声で呟いた。
「………」
葉琉には何と言っているか聞き取れなかったが、葉月は安心したように笑っている。太宰は葉琉の横で「ひゅー」と口笛を吹く真似をしていた。
「ほぉら中也、早く行きなよ」
太宰が詰まらなさそうに触手の塊を指した。中也は小さい舌打ちをすると身を翻しその触手の塊の元へ歩いて行く。
「後で覚えとけ、この陰湿男!」
「頑張れ、単純男」
「女の敵!」
「双黒(小)」
「誰が(小)だ!」
中也が足を進める中、太宰は中也の短刀を取り出し葉琉に渡した。
「頼めるかい?」
太宰が指した先には組合の植物男がいた。葉琉は頷くと走り出しす。横目で中也の様子を確認し「頼んだよ、中也」とつぶやいた。