第9章 大切にするが故に
葉月は少し驚いた表情を見せたが、直ぐに微笑んだ。安心してくれているのだなと思った。しかし、次の葉月の言葉は私が予想していたものとは違った。
「次に遭った時、もし敵同士なら私と闘える?」
そう、私が探偵社で、葉月がポートマフィアに残るという事はそういう事なのだ。葉月もこんな事言うのは厭な筈だ。それでも私の覚悟を確かめる為に尋ねてくれている。こんな時でも葉月は私の事ばかり…。私は静かに頷いた。
「私にも守るものがある。葉月がそれを脅かすなら私は闘う。……だから葉月も、ちゃんと自分を一番に考えてね」
葉月はまた驚いていた。まさか自分が心配されるとは思っていなかったようだ。だが、直ぐに頷いた。そして二人で笑いあった。
「却説、御代の分働きますか」
葉月は急に立ち上がり手を合わせる仕草をした。
「御代って?」
「今、この瞬間、私達がちゃんと話せるようにしてくれたのは太宰さんなの。だからそのお礼をしなくちゃなの」
「え!?薄々厭な予感はしてたけどやっぱ治ちゃんの仕業だったのね。一言教えてくれれば良かったのに」
はぁ、と溜息が漏れる。葉月はその様子をクスクスと笑い乍、後ろに回った。首だけで振り返り様子を伺う。葉月はヘアピンを取り出し、手と腕を縛っている帯の金具を弄り始めた。
「葉月、まさか…」
「そ。太宰さんがやった風にしないとね。私、此処を抜ける訳にはいかないもん」
少し弄るとカチャリと鳴った。流石、治ちゃんと組んでいただけはある。こんな事まで出来るとは。姉の意外な一面を見れた気がして少し嬉しかった。
「後は葉琉の力だけで取れるから、私が居なくなってから取ってね」
「葉月、行っちゃうの?」
「私がいる時に出て行かれたら拙いでしょう」
「あ、納得」
葉月は立ち上がり出口に向かった。そして、出口の前で私の方に向き直った。
「葉琉、太宰さんがまだ捕まったままなら地下。逃げてるなら二階にいると思う。次、どんな風に遭うかは判らないけど、元気でね」
「有難う。葉月も元気でね。中也にも宜しく」
そのまま葉月は部屋を出て行った。