第9章 大切にするが故に
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涙が溢れる。ずっと求めていた温もり。ねぇ葉月、ずっと逢いたかったよ。葉月も泣いているのだろうか。少し震えている。
「葉琉…ごめんね」
その言葉にピクリと反応した。そして、首を横に振り「謝らないで」と言った。
「葉月を責めるように別れて、私も後悔したの。あの時、私おかしくなってた。後で治ちゃんに言われて気付くなんて莫迦過ぎるよね。ごめんなさい。この四年間、私は葉月にずっと重石を乗せてたよね」
葉月の躰が離れ、視界が晴れた。目隠しが外れたのだ。目の前には瞳にいっぱいの雫を溜めた葉月の姿だった。
「私、葉琉に恨まれてると思ってた。もう私の顔なんて見たくないだろうなって。でもあの時、私を見つけて走ってたのみて、もしかしたら違うんじゃないかって思ったの」
「葉月、気付いてたの?」
「勿論だよ。見なくても葉琉だって直ぐ判ったよ」
拗ねる様に「だったら応えてくれても良いじゃん」と言うと、葉月はふふっと笑っていた。
「ごめんね。何を話して良いかも判らなかったし、あの時は敵同士だったじゃない」
敵同士…その言葉が胸に刺さった。私にはその覚悟がまだ無かった。葉月が此処にいたいと思っている事も、中也が大切な事も判っていた。だけどもう一度だけーー「ねぇ」と俯き乍、掠れる声で呟いた。
「一緒に行こうよ、敵なんてヤダよ。ねぇ…おねがい」
まるで幼い子供の様だ。また私は葉月を困らせてる。でも、少しでも可能性があるなら聞いておきたかった。葉月は私の頭を撫で乍、「ごめんね」と応えた。…判っていた。私は首を横に振った。
「先に治ちゃんを選んで離れたのは私だから……葉月も此処に大切なものがあるんだよね?」
「…うん」
その答えを聞いて、顔を上げた。私は何かが吹っ切れた気がした。
「葉月。私ね、探偵社に入って新しい仲間も沢山出来たんだよ。任務でね、人助けもしてるの」
「うん」
「先刻、首領に戻って来ないかと聞かれたの。【漂泊者】を使いたいからって。でも私、探偵社に戻りたい」
初めてかもしれない。今までは葉月や治ちゃん、中也の後に付いて回ってたけど、自分で居たいと思う場所が出来た。守りたいと思うものが出来た。