第9章 大切にするが故に
如何やって辿り着いたか判らないが、私は寮の部屋にいた。ふと思い出される、四年ぶりに見た姉の姿。元気で良かったと云う思い半分、罪悪感が半分と心を埋めていた。
ガチャリー
鍵を閉めた筈の扉が開く。入ってきたのは治ちゃんだ。
「葉琉、落ち着いたかい?」
「うん。……治ちゃんは知っていたの?」
治ちゃんは隣に座った。
「ポートマフィアが関わっていることはね。でも、それは葉琉も気付いていただろ」
「葉月や、芥川君が関わっていた事は?」
「それはあの場に行って知った事だ」
「本当に?」
私は治ちゃんを見つめた。治ちゃんも私から目を離さなかった。
「私は葉琉に嘘は吐かないよ」
嘘吐きーー私は心の中で呟いた。
「谷崎君達を直接傷付けたのは芥川君とあの依頼人さん?」
「葉月ちゃんならあそこ迄はしないと思うよ。たぶん、四肢を撃ち抜いて動けなくして敦君を攫っていっただろうね」
ふふっと笑って治ちゃんは言った。それでも充分怖いよ、とつられて笑ってしまった。
「でも、あの場に居たのは確かだから、葉月が関係ない事はない。谷崎君達には申し訳ない事したなぁ」
「葉琉が気に病むことは無いよ。行なったのは葉月ちゃんであって葉琉じゃない」
「…うん。判ってる」
治ちゃんは私の頭を撫でた。そして小さくごめんねと呟いた。この時、治ちゃんが何を考えているか判らなかったが、何かを企んでいる事は判った。しかし、私は何も聞かなかった。
「却説、ご飯にしようか。葉琉」
「ビーフシチュー作ってないよ」
「葉琉の作ったご飯なら何れも好きだよ」
にっこりと笑う治ちゃんをみて、つられて笑いながら台所へと向かった。