第1章 臆病な恋心
"あれ"とは。
佐助の同郷の女への贈り物のことだと思い当たる。
「あれな。あの、ばらん何とかのお返しの、ほえい?のやつだろ?」
「バレンタインのお返しのホワイトデー」
「それそれ。…で、上手く渡せたのかよ」
「ああ 何とか。でも柄にもなくすごく緊張してしまった」
緊張?
へぇ、佐助にしては珍しいな。
「無事渡せて良かったじゃねーか。あれだけ何日もかけて選んだ品だし」
「そうだな…」
こいつ、あーだこーだ悩みながら、三日は市をうろうろしてたからな。
結局 俺の店でちょうど良い品が入荷して、それに決まって。
すげえホッとした顔してたのを覚えてる。
「で、相手は喜んでくれたのか?」
「…ふ」
っ!
ニヤニヤ!?
嘘だろおい…
「っ、そーか… 良かったな。あの泥団子みてーな餡子餅のお返しにしたらちょっと釣り合わねえ買いもんだったかも知れねーけど」
「泥団子みてーな餡子餅?」
「お前がばらん何とかにあの女からもらったあの餡子餅だ。泥団子っつーか、どう見てもあれは動物のフ…… 痛ッ!」
「莉菜さんに対する侮辱はいくら幸村でも許さない」
「わかった、わかったから それ仕舞えバカ!」
ってぇな、針みてーに尖ったまきびし投げ付けやがって!
「莉菜さん すごくよく似合ってた。可愛かったな…」
チッ、何だよ。
もう遠い目してやがる。
…まぁいいか。
こいつが幸せなら。
"ずっ友"の俺だけが知る、佐助の秘密。
仕方ねーから陰ながら応援してやるよ。
ー おしまい・あとがきへ続く ー