第2章 黒の時代
「ッしゃーー!終わったー!」
両腕を伸ばし伸びのポーズをしている中也。
私もいいところ区切りがついた。
時計を確認すると20時半。
私はパタンとノートパソコンを閉じた。
「ンじゃ!行きますか!」
そう言うと中也は帰り支度を始めた。
私もそれに続いた。
中也の車に乗り込んだ。
「中也、車替えた?」
と尋ねると
「あァ?爆破されたんだよ!」
と、不機嫌そうに教えてくれた。
私はご愁傷様。と告げて窓の外をみていた。
如何にも高級そうなバーに着いた。
中也は慣れた仕草で先にカウンターに着き
私に隣を勧めた。
勧められるまま中也の隣に座った。
「マスター。例のヤツ」
中也がそう言うとマスターは一つのワインを持ってきた。
ラベルにはペトリュスと入っていた。
「中也…!これ高いやつじゃ!」
私は驚きのあまり中也に尋ねた。
「八十九年ものだ。
此奴ァそこら辺じゃお目にかかれないぜ?」
中也はニヤッと私をみた。
ワインが二つのグラスに注がれていく。
注がれたワイングラスが私たちの目の前に差し出された。
中也はそのグラスを手に取り
「葉月の昇進と復帰に」
とそのグラスを掲げた。
私はフッと笑って
「乾杯」
と小さく呟いて中也のグラスに合わせた。
その後中也は
酔った勢いで太宰さんの愚痴を散々こぼしていた。
楽しい時間が過ぎて行った。
落ち着きを取り戻した中也が
タバコを吸いながら私をみた。
「ほらよ。」
そう言うとポケットから小さい袋を取り出した。
「なにこれ?」
「開けてみろよ」
中也に促され開けてみると
中からはバレッタがでてきた。
黒の地に白い花細工がいくつか付いたものだった。
「くれるの?」
「他に何があンだよ。」
私はそのバレッタをまじまじと見つめた。
その様子を中也は微笑みながら見ていた。
「有り難う。大切にするね!」
中也に顔を向けると
中也はそっと私の頰に手を添えて
「此処に残ってくれて
有り難うな。」
と言った。
その時の中也は
どこか切なそうに見えた。
その後、中也は何事もなかったかのように
私を送り届け帰って行った。