第2章 黒の時代
最上階に着くなり
黒服の男たちに止められたが
急ぎだと伝えるとあっさりと通してもらえた。
「失礼します!」
勢いよく扉を開けて中に入った。
「やぁ葉月ちゃん。いきなりどうしたんだね?
そんなに怖い顔で。」
太宰さんはもういない。話は終わったようだ。
首領は私が来ることが予想出来ていたかのように余裕があった。
「織田さんの件、葉琉から聞きました。
まさかとは思いますが、首領が関わっているなんてこと無いですよね?」
「……何故そう思うのかね?」
首領は顔に張り付いた薄い笑みを剥がさずに尋ねた。
「………私が考えたことに似ていたからです。」
首領は面白そうな物を見る目でほぅ。と呟いた。
私は机にある黒い封筒が目に入った。
その中身も大凡の検討がついた。
そして、私の考えは確信に繋がった。
確信までに至らなかった理由は
利益がないからだ。
織田作さんを犠牲にしてまで
ミミックを討伐しても
ポートマフィアには利益がないと思っていた。
其処の黒い封筒を見るまでは。
首領は私の視線に気が付き鋭い目付きで尋ねた。
「だとしたら……君はどうするのかね?」
私はその視線に身体が強張った。
これぞまさに、蛇に睨まれた蛙だろう。
額に汗が滲む。握っていた手も熱い。
答えたくても声が出ない。
「君は気が付いていたんだね。葉月ちゃん。
素晴らしいよ。
なら、どうしてそれを事が起こる前に太宰君に伝えなかった?
葉琉ちゃんに伝えなかった?
君は自分の考えが中る筈もないと思っていたようだね。
いや、そう思い込んでいたようだ。
だが違う。
本当は気が付いていたのだろう?
この台本が論理的最適解だと。
気が付いていたからこそ誰にも報せずにいた。」
私は俯き何も返せずに唇を噛んだ。
「葉琉ちゃんが傷つくと解っていても
太宰君が傷つくと解っていても
織田君がこの後どうなるか解っていても
君はこのポートマフィアにとっての最適解を選んだのだよ。」
頰に温かい何が流れた。
それと同時に私の脚は力なく崩れた。
首領に反論できなかった。
気が付きたくなかった。
こんな自分を認めたくなかった。
葉琉……ごめんね…。
私はゆっくり立ちあがり
何も言わずに部屋を出て行った。