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暗闇の蕾【文豪ストレイドッグス】

第12章 DEAD APPLE


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ーーずっと考えていた。何故、あの男は私の前に現れたのか。何故、葉琉ではなく私なのか。あの男は私と、何を重ねているのか。ーー


躰の感覚が戻る。

頭が、腕が、指が、脚が動く。

内に熱く大きく膨れ上がる力を感じ、葉月は瞼を開ける。視界に入るのは男の背中と、対峙する葉琉の姿。辺りは瓦礫の山だった。

(あぁ、ここまで思い通りに行くとは……)

勿論、葉月だけではここまで思い通りには行かなかっただろう。葉月を利用しようとした太宰。太宰の思惑に気付き乍、それを利用した葉月。この状況は葉月の望んだものになっていた。

ゆっくりと立ち上がると、葉月に気付いた二人が視線を向ける。

「随分と楽しそうですね。是非、私も混ぜて下さいな」

口元に不敵な笑みを浮かべ歩き出す葉月に、葉琉は目を見張り、荘子は笑みで返す。

「呑気な眠り姫様だね」

「でも、待ってて下さったのでしょう?」

葉月は荘子の横を抜けて、葉琉の元まで歩み寄る。荘子も特に、その動きを止める真似はしない。

「あぁ、待っていたとも……」

葉月は葉琉の横に立つと、向き直り、荘子を一瞥する。その瞳は何の感情も宿してはいない。胸に手を当て熱く溢れる力を確認する。

「葉琉、終わったらちゃんと説明もする。だから、いまは力を貸して」

「……治ちゃんも葉月も、本当に勝手で、突っ走って、尻拭いをする私と中也の気持ちも察して欲しいよ」

「でも、無事で良かった」と微笑む葉琉の頭を葉月は優しく撫でた。

「それで、如何したらあの不死身さん倒せるの?」

準備運動でもするように脚を伸ばす葉琉の横で、葉月は真剣な声色で「これは私の我儘だから」と切り出す。

「葉琉は何も気にしなくてもいい」

葉月が葉琉の手を掴む。

「過去より来りて未来を過ぎ久遠の郷愁を追ひくもの
いかなれば滄爾として時計の如くに憂い歩むぞ」

葉月ひとりの声が響く。葉月と葉琉、二人の技。【漂泊者】の調べ。二人で引き出す筈の技は、握った手を通して葉月に強制的に引き出された。

時が、静かに氷つく。
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