第12章 DEAD APPLE
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崩壊した骸砦の跡地に、赤い結晶を額に輝かせた澁澤龍彦が恍惚とした笑みを浮かべて立っている。無造作な足音を立てて、澁澤のもとに近付いてくる人影がある。
「澁澤龍彦だな?」
研いだ刃のように鋭い声で問うたのは芥川だ。澁澤の応えを待たず、芥川は羅生門を呼び出す。
「天魔纒鎧ーー!」
宣言と共に黒布が舞い、芥川の四肢を、全身を覆い隠す。
「ほう?」と芥川を視認した澁澤が、興味深そうに瞳を輝かせる。
「君達も異能者か。この霧の中で、生き残っている者がまだいたとは」
「"君達"?」
澁澤の言葉を聞いて視線を巡らせれば、すぐ後ろに鏡花が立っていた。佇む鏡花に、芥川は微かに眉を寄せる。
「なぜ来た?」
「私は、あの人に光の世界にいて欲しいだけ」
鏡花の言葉には一切の虚飾がない。どこまでも純粋な思いを口にして、覚悟を決めた目を向ける。
「あの男は私がやる……夜叉白雪!」
鏡花の呼び声にこたえ、夜叉が具現化する。
芥川と鏡花。羅生門と夜叉白雪。二人が持つ二つの異能をみた澁澤は、虎の爪痕が残る顔に喜色をあらわにした。
「素晴らしい……。自分の異能を取り戻す者が、二人もいたとは!」
「異能を取り戻すのは私達だけじゃない」
断言する鏡花に、澁澤が目を細める。実際、鏡花には確信があった。このヨコハマの能力者達が、そう容易く屈服する筈がない、と。
龍の力を持つ澁澤に、芥川と鏡花は二人で立ち向かっていった。