• テキストサイズ

暗闇の蕾【文豪ストレイドッグス】

第12章 DEAD APPLE


●●●


「いい感じに場があったまってるじゃねェか」

先程、通信越しに坂口安吾を一喝した男ーーA5158のコードネームで呼ばれる異能者、中原中也はにやりと口元に笑みを浮かべた。

「うわっ……でっか……」

思わず声を漏らすA5116αのコードネームの異能者、萩原葉琉。

ヨコハマ上空。
霧が届かない程の高高度で唸りをあげ滞空しているのは、異能特務課の機密作戦用輸送機『鴻鵠』だ。ゆっくりとハッチが開けられた。澄み切った夜空に浮かぶ、美しい月が目に入る。

「中也」

横並びになり、お互い目を合わせるなんて事はしない。葉琉は端末を取り出し言葉を続ける。

「葉月はまだ塔の中みたい。矢っ張り中也が行きなよ。私があの大きい蛇さん相手する」

中也は葉月の事を葉琉に任せ、自分があの龍に挑むと告げていた。だが、ここで葉琉が作戦の変更を申し出たのだ。

「葉月だって中也に来てもらいたいと思うし、中也だって葉月の処行きたいでしょ?」

葉琉の質問に、中也は答えない。中也は月を眺めて「この前太宰に、世界と葉月、何方を取るかって聞かれた」と呟く。

「俺は何方も取るっつった。手前じゃァあの化け物に潰されて終いだ」

「その質問……そう、治ちゃんが…。でも、潰されて終わりって云うのは心外だなぁ。私だってそこそこやるよ?」

ふっと笑う葉琉。

「手前よりあの化け物倒す確率は俺の方が高ェだろ」

その通りだ。葉琉には中也の"奥の手"のような強い力はない。葉琉は決心したように一歩前へ踏み出す。背を向けたまま「治ちゃんをお願いね」と告げる。太宰が何処にいるかも判らない。それなのに中也は短く「ああ」と答える。

「中也のお姫様、私が助けてあげる」

そう云って、葉琉は返事も聞かずにハッチから飛び降りた。
/ 280ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp