第12章 DEAD APPLE
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「いい感じに場があったまってるじゃねェか」
先程、通信越しに坂口安吾を一喝した男ーーA5158のコードネームで呼ばれる異能者、中原中也はにやりと口元に笑みを浮かべた。
「うわっ……でっか……」
思わず声を漏らすA5116αのコードネームの異能者、萩原葉琉。
ヨコハマ上空。
霧が届かない程の高高度で唸りをあげ滞空しているのは、異能特務課の機密作戦用輸送機『鴻鵠』だ。ゆっくりとハッチが開けられた。澄み切った夜空に浮かぶ、美しい月が目に入る。
「中也」
横並びになり、お互い目を合わせるなんて事はしない。葉琉は端末を取り出し言葉を続ける。
「葉月はまだ塔の中みたい。矢っ張り中也が行きなよ。私があの大きい蛇さん相手する」
中也は葉月の事を葉琉に任せ、自分があの龍に挑むと告げていた。だが、ここで葉琉が作戦の変更を申し出たのだ。
「葉月だって中也に来てもらいたいと思うし、中也だって葉月の処行きたいでしょ?」
葉琉の質問に、中也は答えない。中也は月を眺めて「この前太宰に、世界と葉月、何方を取るかって聞かれた」と呟く。
「俺は何方も取るっつった。手前じゃァあの化け物に潰されて終いだ」
「その質問……そう、治ちゃんが…。でも、潰されて終わりって云うのは心外だなぁ。私だってそこそこやるよ?」
ふっと笑う葉琉。
「手前よりあの化け物倒す確率は俺の方が高ェだろ」
その通りだ。葉琉には中也の"奥の手"のような強い力はない。葉琉は決心したように一歩前へ踏み出す。背を向けたまま「治ちゃんをお願いね」と告げる。太宰が何処にいるかも判らない。それなのに中也は短く「ああ」と答える。
「中也のお姫様、私が助けてあげる」
そう云って、葉琉は返事も聞かずにハッチから飛び降りた。