第12章 DEAD APPLE
●●●
骸砦の最上階。ドラコニアに続く部屋のテーブルにはナイフの刺さったリンゴ。そのテーブルを囲うように五つの椅子が並べられている。四つの椅子にはもう主人が戻ることは無いだろう。残りの一つにはまるで眠り姫の様に眠り続ける少女、葉月。その寝顔はどう見ても成人女性には思えないほど、幼いものだった。
荘子は葉月の前に、片膝を付けるように屈む。そっと、硝子細工を扱うように、葉月の頰へ指を滑らせた。
「君にもこの終焉をみて欲しかったよ。この戯曲の幕引きを、君はどんな顔で眺めるのかな」
荘子の目に映るのは葉月なのか、将又、違う誰かなのか。
ーー「老師(せんせい)」
荘子の記憶の奥で、笑い掛ける女性の影。
(ああ、大丈夫さ。私も直ぐに其方に行くよ)
自分の記憶に応える。その女性の表情は影で見えないが、微笑んでいるように思えた。
不意に、ポケットに手を伸ばす。取り出したのは赤い結晶体。ドラコニアから盗み出したものだ。荘子はその結晶体を、葉月の手に握らせる。荘子がその結晶体を突くと、結晶体は姿を変え、葉月の中に取り込まれる。荘子の口角は上がっていた。
ドラコニアの方から轟音が響いた。巨大な獣の咆哮が空気を揺らす。
それすらも、荘子は驚く様子を見せない。寧ろ、それを待っていたかの様に、ドラコニアへ視線を向ける。
「……君の王子様は選択を迫られる。君か…世界か」
ゆっくりと立ち上がり、葉月へ視線を戻す。
「さぁ、行こう。我々も最後の演舞と洒落込もうではないか」
葉月を抱きかかえ、荘子は最上階の部屋から進み出た。