第12章 DEAD APPLE
ドラコニアには、もはや生きている人間はフョードルしかいない。荘子は元々人間ではない。床には太宰の遺体が横たわり、先程まで居たはずの澁澤龍彦の姿は忽然と消えていた。
けれど、フョードルは気にする事なく、手にした髑髏に視線を落とす。いつも骸砦の最上階でリンゴとともに飾られていた髑髏だった。その髑髏は、澁澤本人のものだったのだ。
フョードルが憐れみを込めて澁澤の髑髏に囁いた。
「あのとき、貴方は死んだ。そして、貴方のコレクションを引き継いだのは」
視線がちらりと、先刻まで澁澤龍彦の立っていた場所に向けられ、直ぐに荘子に移した。荘子は目を細め、フョードルの言葉に続ける。
「死体から分離した君自身の異能だったのだよ。君は私と同じ、異能(にんぎょう)だ」
滑稽だね。と口元を歪める荘子を横目に、暗い笑みを浮かべたフョードルは虚空を見据える。
「死の事実を忘れ、自分を収める部屋を自ら管理する蒐集品。それが今の貴方です。貴方は虎に爪を立てられ、殺されてしまったのてす」