第12章 DEAD APPLE
ずっと死にたがっていた男の、漸く訪れた幕切れに、澁澤達は興味を示さない。やがて、太宰の躰から結晶体が浮かび上がった。フョードルが感心したように目を細める。
「所有者が死んだ事で、異能が分離されはじめましたね」
「所有者と違って、随分と澄んだ色をしているね」
荘子も、愉しそうに笑う。
澁澤は歓喜に震え乍、太宰の異能結晶体に手を伸ばす。
「ああ……生まれて初めてだ。こんなに胸が高鳴るのはーー」
寸前で澁澤の手が止まる。白く輝く結晶体は毒々しい赤に侵され、見る間に真紅に染まった。澁澤の両目が大きく見開かれた。
「……違う?これではない?」
澁澤が後退る。こんな筈ではなかった。
慄く澁澤は、フョードルと荘子が醜く歪んだ笑みを浮かべている事に気付かない。
真紅の結晶体はどんどん光を増し、ついには空中に浮いていた巨大な赤い光と惹かれあいはじめる。莫大なエネルギーを持つ大きな紅玉の光が生まれようとしていた。
想定していなかった事態に、澁澤の顔から自身がこそげ落ちる。落ち窪んだ瞳で見上げるのは、手に負えないほど膨れ上がっていく光の球だった。
「何だ……?」
"これ"は一体、何なのか。
答えが出る前に、澁澤は、成長を続ける光に弾き飛ばされた。