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暗闇の蕾【文豪ストレイドッグス】

第12章 DEAD APPLE


他の結晶体を眺めている荘子が、その二つの結晶体について説明する。

「一つは、見える範囲の異能者を一箇所に集める結晶体。もう一つは、触れた異能者同士の異能を混合し、一つの異能にする結晶体だよ」

愉しげに語る荘子に続き、フョードルもまた、悪魔の笑みを浮かべる。

「この二つでコレクションを全て吸収すれば、エネルギー源は断たれ、霧を維持できなくなります」

以前、澁澤は云っていた。ヨコハマ全域を覆うほど大規模な霧を維持しているのは、膨大な量の結晶体のおかげ、だと。

ならば、全ての結晶体を無効化すれば良い。太宰ならそれができる。

しかし、太宰一人では澁澤を出し抜く事は不可能だった。だからこそ太宰は、フョードルと荘子という協力者を必要としたのだ。

フョードルは二つの異能が閉じ込められた結晶を掲げ、太宰に囁く。

「さぁ、まずはあなたのキャンセル能力で、結晶という殻を無効化し、異能をあるべき姿に戻してください」

フョードルの勧めに従う様に、太宰が二つの結晶体に手を伸ばした。

「敦君達が無事だといいが……」

太宰の指が結晶に触れると、表面が溶けて形を失う。二つは溶け合って回転し、一つの完全な球体を形作った。
生まれたのはリンゴ。
赤いリンゴは能力を開花させた。

ドラコニアの壁を飾り立てる無数の結晶体。その全てが、強烈な吸引力によってリンゴに引き寄せられ、取り込まれていく。リンゴは膨れあがる。内包する過剰な力が空間を圧倒する。

「これに触れて消せば、全てが終わる」

太宰の凛とした横顔には、決意と責任が滲んでいる。太宰の指が巨大化した光に伸びる直前。太宰の背中に何かがぶつかった。

「……っ!」

太宰の両目が見開かれる。熱を帯びた痛みが胸に走った。

「云っただろう?」

太宰の背後から声がかかる。白い髪が流れ、赤い瞳が愉しげに歪む。

「私の予想を超える者など現れない、と」

太宰の背後には澁澤龍彦。澁澤の手にはナイフがあり、ナイフの刃は太宰の背中に突き立てられていた。
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