第12章 DEAD APPLE
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骸砦の最上階。天井まで届く窓が敷き詰められ、ナイフの刺さったリンゴが飾られた部屋の、更に奥。澁澤のコレクションルームーードラコニア。
澁澤の"霧"に襲われた異能者が自らの異能に殺され、その後に残った異能は赤い結晶体となる。それらの結晶体はこのドラコニアに蒐集され、澁澤のコレクションとなるのだ。
ーーそのドラコニアに、太宰は立っていた。
壁を埋め尽くす結晶体はどれも赤く血の色に輝いていて、ひとつひとつに込められた異能者たちの生と死を感じさせる。
無言で結晶体を眺めていた太宰の背後で扉の開く重い音がした。太宰が振り向くと、そこにはフョードルと荘子の姿がある。
「計画通りですね」
フョードルは後ろ手に扉を閉める。手品めいた仕草で鍵を回す。カチリと錠のかかる音がした。これでもう、ドラコニアの中には
三人だけ。澁澤がいない状況で、あえてかけられた鍵からは秘密の香りが漂う。
「ああ……計画通りだ」
太宰は静かに頷き、フョードルと荘子に語りかける。
「全く……苦労したよ。奴に疑われずここまで潜り込むのはね」
「ところで」と太宰が問いかける。
「君達が私と組んだ本当の理由はなんだい?」
「ぼくにとっての世界のあるべき姿を求めただけのことです」
棚を見つめ乍、フョードルは歩く。「それに、老師の願いも叶えられそうでしたし」と荘子に視線を移した。荘子は棚に飾られた結晶体を物色するようにドラコニアの縁を歩く。
「私の願いを叶えられるのはフョードル君か、若しくはあの双子くらいだからね。何方が先か、と云う話だよ。今回は手土産まで付けてくれたしねえ」
荘子の手が棚に伸びる。二つの結晶体をつまみ上げた。
「長い長い人生だ。余興は多い方が楽しい」
「だろう?」問いかけフョードルに結晶体を渡す。フョードルの口元は怪しげに弧を描く。二つの結晶体を手にしたフョードルが脚の向きを変える。同様に、太宰もまた、歩き始めた。
「どうぞ」とフョードルが二つの結晶体を差し出した。
「この二つが、ここにある異能結晶体の中では最高の組み合わせです」
結晶体はフョードルの手の上で浮き、くるくると回転している。