第12章 DEAD APPLE
いつのまにか、ナイフの刺さったリンゴが四つに増えていた。同時に、第三者の声が太宰と澁澤の会話に割って入ってくる。
「ーーぼくに云わせれば、お二人とも真意は筒抜けですよ」
楽しげに笑い、三人目の男は太宰の手から髑髏を取る。
「そんな嘘では戯曲は紡げない。観客も興醒めです」
「ね、老師」と暖かそうな外套を翻し、少し離れた処で外を眺めている中老の男性に声を掛ける。露西亜帽の耳当てを揺らし乍歩いてきた黒髪の男が、紫水晶の瞳で太宰と澁澤を睥睨した。
「『魔人』フョードル君……」
澁澤が和やかに三人目の男を迎える。
「君にも踊ってもらおう。私の協力者として」
「協力?」
太宰が笑いをこぼす。
「彼が裏切る可能性が一番高いよ」
「全くその通り」
フョードル自身が愉快げに同意し、気安い様子で席についた。
「若い者は頭が回って面白いね」
硝子張りの壁から外を眺めていた中老の男がゆっくりと近付いてくる。
「これはこれは、『夢の旅人』さん」
太宰は目を細めて笑う。澁澤は最後の四人目に席を勧める。
「貴方の探し物も直ぐに見つかりますよ、荘子さん」
「……その名で呼ばれたのは何百年振りかねぇ」
懐かしむ様に笑うと、ゆっくりと席につく。
葉月に視線を向け「まぁ私は、欲しいものさえ手に入ればそれでいい」と微笑む。
「君達の遊戯は余興として楽しませて貰うよ」
荘子の言葉を受け、澁澤は静かに自らも席につく。その表情は柔らかく、自信に満ち溢れている。
「今まで私の予測を超えた者は一人もいない……期待しているよ」
太宰、フョードル、澁澤。三者三様の目的と意思とが交錯する。誰が己の目的を達成できるのか、結論は未だ見えない。そもそも彼らの目的など、誰にも判らないのだから。
荘子はそんな三人の思惑を知ってから知らずか、まるで自分は無関係かのように「もっとも」と歌うように云った。
「一番気の毒なのは、この街の異能者達だがね」
極寒の地にある氷を思わせる、冷えきった笑みを浮かべる。
「誰が勝ち残っても、彼らは全員死ぬのだから」